昔々じゃない あるところに おばあさん がいました
おばあさんには4人の娘と末に生まれた一人息子がいました
これはそのおばあさんの息子の嫁 アキコさんのお話です・・・・
大恋愛で結ばれたアキコさん 経営者の妻として経理もこなし
同居の姑 や 折折に訪ねてくる義姉家族にも尽くし 子供の教育と
まさに嫁の鏡・・・ 息抜きはスポーツカーでのドライブ
姑が80代半ばを超えた頃から 義姉達の訪問頻度が高まってきたある日
居室にお茶を持って行ったところ シラーーーッとした空気
帰り際 『偽善者!』と 義姉が吐き捨てるように投げつけた言葉に
アキコさんは 全く思い当たる節が無かった
それまで突然ふらりとやって来た義姉は
2人 3人と連れ立って訪問しては母の居室に直行し アキコさんを無視し目も合わせない
夫に相談しても 気のせいだ とか、オフクロとケンカでもしたのか? と
トンチンカンな事を言って取り合ってくれない
肝心の姑は全く変わったところが無く 夫は朝食時に母に声をかけるだけで アキコさんとお手伝いさん家の切り盛りと姑の世話をしていた
そして・・・・ 年末がやってきた 義姉達から暮れの挨拶がない
年賀状の宛名が夫婦名併記だったものが 夫の名前だけとなっている
新年の挨拶に来た義姉に おめでとうございます と 声をかけたアキコさんに 『泥棒猫! 騙されないわよっ』と 義姉の放った言葉
さすがに 夫もただならぬ気配を察知し 義姉の一人に問いただすと
『アキコさんがお母さんのお金も指輪も全部盗ってしまったっていうじゃないの』と 切り返されたという
義母の言葉を信じ込み 事実を確認することなく疑った4人の義姉
長年尽くしてきた姑の言葉が許せずアキコさんは一人家を出た
その後 アキコさんが夫の元に帰ったのは半年後 梅雨明けの頃だった
姑と義姉と 夫の押し問答は 春先まで3ヶ月続いた
宝石箱 高級呉服 毛皮 株券 山林の登記簿謄本は揃っている
通帳から現金を引き出した形跡などなくても
『お母さんがアキコさんに盗られたと言っている』と譲らない義姉たち
『母さん警察を呼ぼう 泥棒がいる家には住めないよな 本当に何を盗 られたか思い出してくれ』
警察と言う言葉に姑は初めて口を開き 『なんだか私が勘違いしたのかしら』と それでも薄ら笑いをしたという
『母さん 貯金も山も全部持って姉さんの所に行って下さい』と息子の
言葉に 薄ら笑いは消え姑は泣きだし謝罪の言葉を繰り返し義姉達もソワソワし始めた
アキコさんは その話を夫から聞いた時に 今しかない!!!と 積年の苦労をぶちまける・・・のではなく 『この機会におばあちゃんには施設に入って頂きましょう』と静かに切り出した
母と姉が頭を下げれば妻は帰ってくるとタカをくくっていた夫
自分は何もしない癖に 長男として母の面倒を見る と吹聴していた夫
『それからが本当の闘いだったかもね パパが週末にマンションにやってきて帰ってこい 戻ってくれと泣いたり脅したりね 離婚するぞ と言われた時 ハイそうしましょうと言ってやったわよ 二の句が継げないっていうのはアレね 写真撮っときゃよかったわ』と 嫣然と語るアキコさん
夫が自ら探した老人ホームに姑を入居させたのは5月末
そしてアキコさんは最後のツメに出た せっかく入った施設を出てきてしまう高齢者の話をよく聞いてたからだ
『おばあちゃんの部屋 全部リフォームして下さい 完成後に帰ります』と姑の退路!を断った
ホームの最上室で米寿の祝いにアキコさんは1年ぶりに姑と対面した
義姉達は誰も来なかったという
おばあちゃん 私の事 もうわかってなかったかもしれない ヘルパーさんと思ってるのかもしれないわね
お金を盗ったというのも 私が憎くて言ったのでは無いって、認知症が言わせた言葉だったと理解することも出来るし ちょっとかわいそうにも思うけれど 義姉達の事はやっぱり今も許せない
指輪も毛皮も無くなってるのよ あんなもの欲しくもないけれどね
結局私は下の世話もすることなく 施設探しもしなくて済んだ
一番悪いのは夫なのよ 私が二十年我慢してきたのが半年間の家出でよく判ったんじゃないかしら?
夫に対して 最期の面倒は見ないかもしれない アナタ次第よ 覚悟しておいてね と 伝えることが出来た事が一番の収穫よね
姑とわがままな夫の介護で自分の老後をすり減らすなんてまっぴらよね
アキコさん 今や90歳になるお姑さんに菓子を届け ヨガとフラワーアレンジメント教室に通い、たまに深夜のドライブ休憩中にワタシに電話してくる
賢い嫁のアキコさん しあわせに暮らしていますとさ
めでたし めでたし・・・・? おしまい・・・・
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